ストパニとマリみてを足して二で割ったような世界観。
ストパニほど閉鎖的ではないしマリみてほど平和な世界でもない。
表紙からはほんわかした学園モノという印象を受けるが、内容はそうでもない。
月光館学園は初等科から大学まで一貫教育の全寮制音楽学校。
花形の声楽専攻の生徒の3割は辞め、そのうちの8割は編入生が占めると言われている。
ここにはエンゲージ制といって
作曲科と声楽科の生徒がパートナーを組むことができる制度がある。
まあ、公認の恋人制度のようなもので、声楽科の生徒は「歌姫」、作曲科の生徒は「騎士」と呼ばれている。
学園の歴史はかなり長く、主人公の舞坂よぞらと岸辺世界の祖母もエンゲージしていたし、
その時交わした指輪を孫の2人も交わすことになる。
もともとはたくさんの「歌姫」と「騎士」がいたのだが、
今は海百合と永遠しかいない。
歌姫は学外での広報活動を担っていて、
よぞらは学園唯一の「歌姫」海百合に憧れて学園への入学を決意する。
しかし、学園に入ってみると海百合には「歌姫候補を喰う」と言う噂が流れていたり、
彼女の所属する合唱部と生徒会の間には険悪な雰囲気が流れていたりと、
単なる憧れの存在と言うだけでは済まされない一面を持ち合わせている。
事実、よぞらのクラスメイト鏡薔子も早々に「喰われて」しまい不登校になってしまう。
海百合に憧れるよぞらに対して彼女の危険性を忠告したのが、よぞらの騎士になる岸辺世界だった。
岸辺家は名門の作曲一族で作曲科のなかでは永遠と肩を並べる存在でもある。
世界は祖母で月光館の教師をしていた譲葉(よぞらの祖母の騎士でもあった)から作曲を学んだが、
彼女は世界に「誰かを想って」音楽をつくってほしいという願いを残して他界してしまう。
そんな相手のいない世界はそれ以来、ピアノから遠ざかっていった。
ただ、よぞらと出会い二人の時間を過ごすなかで少しずつ変わっていき、
徐々に彼女のための曲を作るようになっていく。
この二人を引き裂こうと海百合と永遠が動き始める。
彼女たちはなぜエンゲージを解消させようとするのか、これにはもちろん理由がある。
もともと永遠も海百合も孤高の存在で、一人で活動することを好んでいた。
しかし、エンゲージ制ありきの学園の思想とは相容れず学園側から評価されないどころか、
非難されることも多くあった。
学園の思想に対する海百合の評価は「指輪ひとつ交換するだけで"至上の音楽"なんてもてはやされるのだもの。この学園は狂っているわね」という言葉によく表れている。そして、海百合の理想は「きっと月光館はもっと自由に音楽を表現できる場所になる」である。
利害が一致した2人はエンゲージをして活躍し、
最終的にはエンゲージ制を廃止して一応の目的を果たす。
ただ、エンゲージ制の廃止を目指した活動を通して仲が深まり、
最期には本当の意味でエンゲージすることになるのだが...。
一人ひとりの才能を花咲かせてほしい、エンゲージできなかった生徒たちはどうなるのか、
そういう想いは正しいのだが、二人のやっていることは中々えげつない。
退学、不登校に追い込んだり、よぞらの手首を縛って目隠しまでしたりと表紙からは
想像できないようなことをやってのける。
生徒会長の歌姫も海百合の犠牲者で、これをきっかけに生徒会と合唱部が険悪なムードになったり、
生徒会長もピアノを弾かなくなったりしている。
いろいろな犠牲は払ったが、最終的にはエンゲージなど関係なしに
皆が自分の才能を発揮できる学園になった...
学園がエンゲージにこだわるのは広告塔としての価値を見出しているからでもあって、
生徒の立場からしたら、そんな目的のために利用されるのではなく、
互いを思い合う本来あるべき歌姫と騎士を目指したい、目指してほしいということだろうか。
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ちなみによぞらのクラスメイト実塔ねね(さねとうねね)はカードキャプターさくらの知世ちゃんのような存在で、
よぞらのことをきせかえ人形のごとく扱ってありとあらゆる服を着せて楽しんでいて、
こういう学園モノにありがちなほんわかした雰囲気を醸し出すのに一役買っている。
ただ、よぞらに世界の写真を撮らせて、生徒たちの間で秘密裏に行われる
物々交換の材料に使っているなど、裏でやっていることは海百合同様えげつない。